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大阪高等裁判所 昭和54年(ネ)239号 判決 1982年10月28日

控訴人・附帯被控訴人(以下単に控訴人という) 増田美徳

右訴訟代理人弁護士 大井亨

同 山川高史

被控訴人 逢阪勝見

被控訴人・附帯控訴人(以下単に被控訴人という) 藤木藤太郎

同(同) 南部新助

右三名訴訟代理人弁護士 森島忠三

被控訴人藤木藤太郎、同南部新助両名訴訟代理人弁護士 岡恵一郎

被控訴人・附帯被控訴人(以下単に被控訴人という) 千里寺

右代表者代表役員 武田覚誓

右訴訟代理人弁護士 後岡弘

主文

一  原判決中、控訴人の勝訴部分及び被控訴人藤木藤太郎、同南部新助の勝訴部分を、いずれも取り消す。

二  控訴人の請求及び被控訴人藤木藤太郎、同南部新助の主位的、予備的請求をいずれも棄却する。

三  被控訴人逢阪勝見の参加請求に関する訴訟は、昭和五五年一二月五日同被控訴人が死亡したことにより終了した。

四  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人千里寺に生じた費用の二分の一と控訴人に生じた費用を控訴人の負担とし、同被控訴人に生じたその余の費用と被控訴人藤木藤太郎、同南部新助に生じた費用を被控訴人藤木藤太郎、同南部新助の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

1  控訴人

(一)  原判決を次のとおり変更する。

(二)  被控訴人千里寺は、控訴人に対し原判決添付目録(一)記載の土地(以下(一)の土地という)につき昭和四〇年一〇月六日付売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(三)  被控訴人逢阪勝見、同藤木藤太郎、同南部新助の(当審において請求を拡張した部分を含む)請求及び(当審において追加した)各予備的請求をいずれも棄却する。

(四)  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  被控訴人ら

(一)  本件控訴を棄却する。

(二)  主位的請求

原判決を次のとおり変更する。

(1) (当審において請求を拡張して)被控訴人藤木藤太郎、同南部新助と控訴人及び被控訴人千里寺との間において、(一)の土地につき被控訴人藤木藤太郎、同南部新助が各三分の一の共有持分を有することを確認する。

(2) 被控訴人千里寺は、被控訴人藤木藤太郎、同南部新助に対し(一)の土地につき昭和三四年一月三〇日交換を原因とする各三分の一の共有持分の所有権移転登記手続をせよ。

(3) 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

(三)  第一次予備的請求

(1) 被控訴人藤木藤太郎、同南部新助と控訴人及び被控訴人千里寺との間において、(一)の土地につき財団千里山美和遊園が所有権を有することを確認する。

(2) 主位的請求(2)に同じ

(3) 附帯控訴費用は控訴人の負担とする。

(四)  第二次予備的請求

(1) 第一次予備的請求(1)に同じ。

(2) 被控訴人千里寺は、財団千里山美和遊園(千里山農事実行組合)の贈与の申込みに対する吹田市の承諾を条件として、吹田市に対し(一)の土地につき所有権移転登記手続をせよ。

(3) 附帯控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  当事者の主張及び証拠関係は、次に訂正付加するほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一1  原判決三枚目裏四行目末尾に「前記昭和二四年七月の売買が成立していないとしても、昭和三〇年一二月二七日ころか、遅くとも解散総会直前の役員会が開催されたときに控訴人と実行組合との間に右土地の売買契約が成立した。」を加える。

2  同四枚目裏四行目「4」の次に「及び5」を加える。

3  同五枚目裏三行目から五行目までを削る。

4  同六枚目裏四行目「右売却案」の前に「出席した殆どの組合員が」を後に「に強く反対した」を加え、同行目「は否決された」を削り、五行目「原告」を「原福次郎」に改める。

5  同一〇行目から七枚目表二行目までを削り、三行目「(四)」を「(一)」に改め、四行目と五行目との間に次のとおり加える。

「(二)それまで、組合員全員は、財団法人設立の発起人会にその持分権(管理、処分等一切の権限)を譲渡する。(三)発起人会は、前記三万七五〇〇円を遊園の運営維持費に使用する。」

6  同七枚目表五、六行目「旧実行組合役員であった」を「組合員から、財団法人設立発起人に実行組合役員全員を選任する旨の意見が出たが、小塩太吉、田辺強、滝谷村吉が辞任を申出たので、その補充として被控訴人藤木藤太郎、同南部新助が発起人に就任する旨申出た。そこで組合総会は、」に改め、七行目末尾「は全」から一〇行目終りまでを「を財団法人美和遊園設立発起人に選任した。そして発起人会の代表者として被控訴人逢阪勝見が選任され、(三)の土地は発起人の共有となった。」に改め、一二行目、同裏三行目冒頭、同裏末行末尾から八枚目表一行目及び同八枚目表末行末尾の各「及び(二)の土地」をいずれも削る。

7  同七枚目裏二行目「実行組合役員」を「発起人」に改め、四行目「二月ころ役員」を「一月三〇日発起人」に改め、同行目「協議」の次に「(追認を含む)」を加え、一一行目「前記」から一三行目「変更し」までを削る。

8  同八枚目表六行目「右役員会及び」を「民法上の組合である」に改め、一〇行目末尾に「さらに、昭和五五年一二月五日被控訴人逢阪勝見が死亡したので、残存組合員は合計三名となった。」を加え、一二行目末尾「ら」を「藤木藤太郎、同南部新助」に改め、末行目冒頭「は」の次に「主位的に」を加え、同行目「及び(二)の土地」を削り、同裏一行目「ら」を「藤木藤太郎、同南部新助」に、同行目及び次行の「四分の一」を「三分の一」に各改め、二行目「各」を削る。

9  同九枚目表九行目「のうち」から一〇行目「その余」までを、裏五行目「のうち」から六行目「余の事実」までを各削り、一二行目「本件土地」を「(一)の土地」に、末行目「役員」を「発起人」に各改める。

10  同一〇枚目表九行目「は認める」の前に「及び被控訴人逢阪勝見が昭和五五年一二月五日に死亡したこと」を加え、一二行目「現在も」を「死亡まで」に改める。

11  同二三枚目表三行目末尾に「(実測一四七坪、約四八五・一平方メートル)」を、同末行「吹田市」の次に「千里山」をそれぞれ加える。

二  控訴人の主張

1  本案前の抗弁

(一) 実行組合の構成員の総有関係は、その代表者個人名義もしくは構成員全員の共有登記にするしか方法がないところ、被控訴人藤木藤太郎、同南部新助は、両名についての共有登記を求めているが、構成員全員についての共有登記を求めるのではないから管理行為とはいえず、当事者適格がない。

(二) 控訴人に代って市場又は千里山自治会が遊園地を管理してきたが、被控訴人南部新助は、昭和五五年四月二九日頃千里山から吹田市大字佐井寺へ転居し、千里山自治会の職も辞して自治会を脱退して遊園地の管理もしてないから当事者適格がない。

2  本案の主張

控訴人は、実行組合からその所有の(三)の土地を同組合の解散総会前に買受けてその代金三万七五〇〇円の支払いを了している。すなわち、右総会は(三)の土地の売買を決議するためのものではなく、残余財産を配当し、解散するためのものであり、同総会当時実行組合は既に右代金を収受していたこと及びこれが配当されたことは収支計算書によって明らかであり、その後土地の交換がなされて、被控訴人千里寺が宗教法人法に基づき財産処分の決議をした際、控訴人を(一)の土地所有者として決議しているのに、被控訴人藤木藤太郎は同千里寺の総代であるのに右手続に対し何ら異議を述べていないこと及び被控訴人逢阪勝見、同藤木藤太郎、同南部新助が本訴に至るまで自ら所有権移転登記を求める手続をとっていなかったことは控訴人の所有を物語っているのである。

実行組合の総会において、発起人が選任されたことはなかったし、発起人がわざわざ(三)の土地の持分を取得し、それを発起人会へ出資したりする必要は全くなかった。

3  被控訴人逢阪勝見、同藤木藤太郎、同南部新助の当審での予備的主張事実は、すべて否認する。

(一) (権利能力なき財団について)実行組合の総会で財団法人を設立するとの決議があったのであれば、設立者が寄付行為の書面を作成して関係官庁の許可を得れば足りる。実行組合が寄付したのであれば、その代表者原福次郎が寄付行為をしなければならない筈であるが、その事実はなく、民法三七条一号ないし五号所定の事項、財産の区別、代表理事の代表者としての行為等権利能力なき財団たるにふさわしい実態は全くない。

(二) (権利能力なき社団の清算人について)清算人が選任されたとすれば、実行組合の解散には民法七四条を準用すべきで理事が清算人となった筈である。理事は組合長原福次郎と副組合長控訴人の二人だけであり、幹事一〇名を含めると一二名であり何れにしても被控訴人藤木藤太郎、同南部新助が清算人となる筈がない。

清算人による交換契約があったとすれば、実行組合の代表清算人というべき原福次郎が市場と契約する筈であり、被控訴人逢阪勝見、同南部新助が市場と契約しても無効である。

清算人の多数決で吹田市へ贈与を決議したと主張するが、少くとも控訴人にはその会議を開く旨の招集の通知を欠くから無効である。また、その決議は清算の目的の範囲を逸脱して無効である。

三  被控訴人逢阪勝見、同藤木藤太郎、同南部新助の主張

1  本案前の抗弁について

被控訴人南部新助の住所は、従前より吹田市千里山竹園町二丁目三番八号であり、弁論期日及び和解期日に必ず出頭するなどして熱意をもって本件訴訟を遂行しているものであって、当事者適格を有することは明白である。

2  本案の主張

(一) 発起人会構成員の組合契約による共有の主張が理由ないとしても、昭和三一年三月一一日の実行組合総会では、(一)遊園地設置を目的とする財団法人を設立する(二)右財団に対し遊園地敷地として実行組合所有の(三)の土地を寄附する。(三)右財団の運営のため、理事として前記参加請求の原因に記載の一〇名を選任する。(四)寄附行為の作成、主務官庁の許可申請手続等、財団法人設立に必要なその他の事項の決定、実施は右理事らに委任する決議がなされ、右決議に副って被控訴人逢阪勝見が代表理事に選任され、各活動がなされて来たのであるから、昭和四四年頃事実上その設立が不可能となったものの、昭和三一年三月一一日いわゆる権利能力なき財団が成立し、(三)の土地所有権は同財団に帰し、その後全理事による昭和三四年一月三〇日の交換により(四)の土地((一)の土地)所有権が同財団に帰属した。

ところで、代表理事たる被控訴人逢阪勝見の死亡により財団千里山美和遊園の代表権は、理事たる被控訴人藤木藤太郎、同南部新助及び控訴人がそれぞれこれを有することとなった。

よって、被控訴人藤木藤太郎、同南部新助は、予備的に控訴人及び被控訴人千里寺に対し財団千里山美和遊園が(一)の土地を所有することの確認を求め、被控訴人千里寺に対し同土地につき昭和三四年一月三〇日交換を原因とする各三分の一の共有持分の所有権移転登記手続を求める。

(二) さらに、右権利能力なき財団の主張が理由ないとしても、もともと(一)、(三)、(四)の土地は、権利能力なき社団たる実行組合の構成員の総有に属する。実行組合は、昭和三一年三月一一日の総会で解散するとともに清算人として前記一〇名を選任し、清算人らにおいて昭和三四年一月三〇日前記土地の交換をした。そして同人らは昭和四五年六月二八日吹田市に(一)の土地を贈与する旨を多数決で決議し、その頃吹田市に対し右贈与の意思表示をした。被控訴人千里寺は、同年七月二一日控訴人の同意を条件に吹田市に対する所有権移転登記手続を承諾した。しかし、控訴人は多数決に従わねばならない(後日の紛争発生は考えられない)。

よって、被控訴人藤木藤太郎、同南部新助は、さらに予備的に、被控訴人千里寺に対し財団千里山美和遊園(実行組合)の贈与の申込に対する吹田市の承諾を条件として、吹田市へ(一)の土地所有権移転登記手続をすべき旨の裁判を求める。

四  証拠関係《省略》

理由

一  まず、被控訴人逢阪勝見の関係部分について判断する。

1  同被控訴人が昭和五五年一二月五日死亡したことは、同被控訴人と控訴人との間に争いがなく、被控訴人千里寺との間では明らかに争わないから自白したものとみなす。

2  被控訴人逢阪勝見の参加請求部分についてみると、同人主張の民法上の組合としての発起人会の組合員が死亡したときにその資格を失うことは、その主張(訂正引用にかかる原判決八枚目表六行目から一〇行目まで)にてらして明らかであるから、参加請求原因記載の組合員たる地位は一身専属的なものであって、相続の対象となりえないものと解するのが相当である。

してみると、右参加請求に関する訴訟は、昭和五五年一二月五日被控訴人逢阪勝見の死亡により終了したものといわなければならない。

3  同被控訴人の附帯控訴にかかる予備的請求部分についてみると、同請求は、権利能力なき財団の代表者代表理事たることを前提に、被控訴人逢阪勝見が個人として所有権確認及び所有権移転登記手続を求めるものである。ところで、訴訟の係属中に権利能力なき財団の代表理事が死亡したときは、民事訴訟法二一一条、二一三条を類推適用し、新たに選任された代表理事が当該訴訟を承継し、もし、新代表理事が選任されずに欠ける場合でも、理事があるときは、理事はもともと代表権があるから理事が権利能力なき財団を代表し、その訴訟を承継すると解するのが相当である。

本件においては、被控訴人逢阪勝見の死亡による新代表理事の選任は認められないところ、権利能力なき財団の理事たることを前提に、被控訴人藤木藤太郎、同南部新助が同旨の予備的請求をするのである。してみると、右両名において右訴訟を承継したと認めるのが相当である。

二  本案前の抗弁について

1  控訴人は、被控訴人両名が共有登記を求めるのは管理行為とはならず、当事者適格を欠くと主張するが、代表権を有する者三人のうちの一人が所有権全部の移転登記手続を求めるのでなく、その一部である三分の一の持分移転登記手続を求めたからといって、管理行為でないとはいえない。

2  控訴人は、被控訴人南部新助は、昭和五五年春吹田市大字佐井寺へ転居したことにより千里山自治会の職も辞しているので当事者適格がない旨を主張するが、右転居等は発起人、理事、清算人の地位に直ちに影響を及ぼす事由ではないから、右により当然に当事者適格を欠くとはいえない。よって、右各主張は、採用できない。

三  当裁判所も控訴人の(三)土地を実行組合より買受け、所有権を取得したとの主張は、理由がないと判断するものであって、その理由は、次のとおり、付加するほか、原判決理由の説示(原判決一一枚目表八行目から同裏一一行目まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一一枚目表末行「右代金を支払った旨、」の次に「又は、右一二月二七日ころか、遅くとも解散総会直前の役員会が開催されたときに売買が成立した旨、」を加える。

2  同一一枚目裏三行目冒頭に「当審証人寺西文男、同小塩太吉」を、同行「原告本人の供述」の前に「原審及び当審における」をそれぞれ加える。

3  控訴人は、被控訴人千里寺が控訴人を(一)の土地所有者として財産処分の決議をした際、同寺の総代である被控訴人藤木藤太郎が異議を述べていないことは同土地が控訴人の所有であることの証左であると主張する。しかし、(一)の土地の財産処分の決議は実体的処分ではなく、単に登記名義の変更のみであるところ、被控訴人藤木藤太郎の原審での供述によると、同被控訴人は被控訴人千里寺の檀家総代の一人ではあるが、檀家総代のなかの一人にすぎず被控訴人藤木藤太郎は同寺の役員でないこと及び右財産処分の決議に関与しているとはいえないことが認められるから右主張は採用できない。

四  そこで被控訴人藤木藤太郎 南部新助の本位的請求の主張について判断する。

1  本件(三)の土地(又は(一)の土地)を出捐して財団法人を設立しようとした経緯についての事実関係の認定は、次のとおり付加、訂正もしくは削除するほか、原判決理由の説示(原判決一一枚目裏末行から一七枚目表七行目まで)と同一であるから、これを引用する。

(一)  原判決一二枚目表八行目末尾「でき」を「でき、」と改め、次行冒頭「る。」を削り、「右認定に反する当審証人小塩太吉、同寺西文男の各証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果は、前記各証拠と対比してにわかに措信できず、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。」を加える。

(二)  同一三枚目表九行目「柵を作り、」の次に「何ら遊戯施設のない空地のままの状態で、」を加える。

2  以上引用にかかる原判決認定事実によれば、次のように結論づけることができる。

(一)  実行組合は、その解散総会において、(三)の土地を出捐して財団法人千里山美和遊園を設立すること、そして財団の目的を定めたものの寄附行為を作成するに至らず、原福次郎ら一〇名を設立準備委員(関係者は、発起人と称しているが、財団法人の設立については、設立準備委員、もしくは管理者の法的性格をもっているものとみるのが相当である。)を選任して、右財団法人の設立手続及び財団法人設立までの間の目的財産たる(三)の土地の管理を一任する旨議決した。

(二)  設立準備委員原福次郎ら一〇名は、逢阪勝見を代表者に選び、右総会決議の趣旨に副って(三)の土地(後に交換により取得した(一)の土地)の維持、管理に当るとともに、主として代表者逢阪勝見が財団法人設立のため関係官庁に働きかけるなどしたが、昭和四四年ころ、設立許可を得ることが不可能であることが確定したので、財団法人設立を断念することになった。なお、代表者逢阪勝見は、関係官庁に働きかけ、あるいはその意向を打診しているにとどまり、正式に財団法人設立許可申請をしたものとは認められないから、いまだ寄附行為は作成するに至らなかったものとみるのが相当である。

(三)  財団法人の目的財産たる(三)の土地は、財産出捐者である実行組合の財産から明確に分離され、設立準備委員である(発起人)逢阪勝見ら一〇名の管理に移されたとはいえ、いまだ、寄附行為も作成されず(設立許可申請手続もなされず)、従って財団としての独立の管理機構をもって、前記財産が独立の存在として管理運用されているとはいゝえないから、設立中の財団が成立したものとみることはできない。

(四)  してみれば、実行組合と逢阪勝見ら一〇名の設立準備委員との関係は、財団法人設立を目的とし、法人設立までの間の目的財産たる(三)の土地(又は(一)の土地)の管理を委託する信託もしくはそれに準ずる関係とみるのが相当であって、後に述べるように、実行組合が一たん逢阪勝見ら一〇名に目的財産たる(三)の土地を譲渡し、その共有に移したものとみることはできない。

3  前叙のとおり、昭和四四年ころ、財団法人設立許可を得ることが不可能であることが確定したのであるから、実行組合の目的財産の出捐は無効に帰し、(三)の土地に代わる(一)の土地は実行組合に復帰し、また、実行組合と設立準備委員逢阪勝見ら一〇名との目的財産の管理の委託関係も、「信託ノ目的ヲ達スルコト能ハサルニ至リタルトキ」(信託法第五六条)によりもしくはこれの準用により、終了したものというべきである。

4  被控訴人藤木藤太郎、同南部新助は、前記解散総会の議決により逢阪勝見ら一〇名の設立準備委員(発起人)が(三)の土地の譲渡を受けたと主張し、《証拠省略》中には右主張に副う趣旨の供述があるが、右供述は、前記認定に照らし容易に措信し難く、為に右主張を認めるに足る的確な証拠はない。のみならず、前記認定事実に徴すると、目的財産たる(三)の土地を一時的とはいえ右一〇名に譲渡して、その共有に移すことは、これを個人の所有とはしないという組合総会の意思と矛盾するばかりでなく、実行組合が同時に解散するという点を考慮に入れても、財団法人の設立について目的財産を一たん右一〇名に譲渡することは、徒らに煩雑さを増すばかりで、何らその必要性は認められない。

よって、被控訴人藤木藤太郎、同南部新助ら一〇名が実行組合から(三)の土地の所有権の譲渡を受けたことを前提として、(一)の土地につき共有の持分権を有するとの同被控訴人らの主張は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないといわねばならないといわねばならない。

五  次に被控訴人藤木藤太郎 同南部新助の予備的請求の主張について順次判断する。

1  同被控訴人らは、権利能力なき財団である設立中の財団が成立したと主張するが、右設立中の財団が成立したとみられないことは、前叙(四の2の(二))のとおりであるから、同被控訴人らの権利能力なき財団の成立を前提とする主張は、その余の点を判断するまでもなく理由がない。

2  同被控訴人らは、清算人に選任された旨を主張するが、同被控訴人らは、前認定のとおり実行組合の理事その他の役員ではないから、当然に清算人になるわけではなく(民法七四条)、また、定款に別段の定めがあるか、あるいは昭和三一年三月一一日の実行組合総会で同被控訴人らが清算人に選任されたことを認めるに足りる証拠はない。よって、その選任のあることを前提とする主張は、その余の点についてみるまでもなく、理由がない。

六  してみると、控訴人の請求及び被控訴人藤木藤太郎、同南部新助の主位的、予備的請求はいずれも理由がなく棄却すべきものといわねばならない。

以上の次第で、合一確定の必要上、原判決中、控訴人、被控訴人藤木藤太郎同南部新助の勝訴部分をいずれも取り消し、控訴人の請求及び被控訴人藤木藤太郎、同南部新助の主位的、予備的請求をいずれも棄却することとし、被控訴人逢阪勝見の死亡による訴訟終了を宣言し、民事訴訟法三八六条、八九条、九三条、九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林定人 裁判官 惣脇春雄 山本博文)

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